医療コラム
粉瘤をスピーディーに除去できる「くりぬき法・へそ抜き法」とは?
「背中にしこりができた」「臭いのするドロッとしたものが出てきた」——そうした症状でご来院される患者様の多くに共通するのが、粉瘤(ふんりゅう)というできものです。皮膚科では日常的に診ることの多い疾患ですが、放置すると炎症を起こして痛んだり、どんどん大きくなったりすることもあります。
当院では粉瘤の除去に際して、くりぬき法(へそ抜き法)を積極的に取り入れています。傷を小さく抑えながらスピーディーに除去できるこの方法について、構造や手術の仕組み、向き・不向きまで含めて詳しく解説します。
目次
粉瘤(アテローム)とはどんなできもの?
粉瘤は、皮膚の内部に袋状の構造(嚢腫)ができ、その中に古い角質や皮脂などが蓄積していく良性の皮膚腫瘍です。医学的には表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)とも呼ばれ、英語では "epidermoid cyst" といいます。「アテローム」という名称で呼ばれることもあります。
粉瘤は皮膚のあらゆる場所に生じますが、特に顔(耳の前後・頬・額)、首、背中、臀部(おしり)に多く見られます。年齢的には20〜50代に多いとされていますが、実際には10代から高齢者まで幅広い年代に生じ、性別を問わず誰でも発症しうる、きわめてポピュラーなできものです。
外見上は丸いしこりとして触れ、中央に黒い点(開口部・臍部〈さいぶ〉)が見えることが多いのが特徴です。押すと臭いのある白〜黄色の角質様の内容物が出てくることがあります。炎症を起こすと赤く腫れ上がって痛みを伴い、破裂してしまうこともあります。
粉瘤は自然に消えることはなく、放置すると少しずつ大きくなっていきます。炎症を繰り返すと周囲の組織と癒着して除去が難しくなるため、気になる段階で早めに皮膚科を受診し、外科的に除去することをおすすめしています。
粉瘤に似た別の疾患——誤診に注意
粉瘤は皮膚科医が日常的に診る疾患ですが、その外見に似た別の疾患が多数あり、正確な診断なく「粉瘤だ」と言い切ることは非常に危険です。
実際に当院へ「他のクリニックで粉瘤と言われた」と来院される患者様の中に、以下のような別疾患であったケースが少なくありません。
| 疾患名 | 特徴・粉瘤との違い |
|---|---|
| 毛根鞘性嚢腫 | 頭部に好発する嚢腫。組織学的には粉瘤と異なり、壁の構造が異なる。肉眼ではほぼ区別できないが、診断・治療の方針に影響する。 |
| 脂腺嚢腫 | 皮脂腺由来の嚢腫。多発することが多く、内容物が皮脂様。粉瘤と同様のしこりに見えるが、構造が異なる。 |
| 毛包炎・せつ・よう | 毛包の細菌感染症。炎症性粉瘤との鑑別が特に重要。「せつ」は毛包全体の感染、「よう」は複数の毛包が癒合した重症型で、いずれも抗菌薬などの内科的治療が優先される。これを粉瘤として切開・摘出しようとするのは誤りであり、かえって感染が広がるリスクもある。 |
| 脂肪腫 | やや深い位置に生じる皮下脂肪の良性腫瘍。表面に開口部がなく柔らかい触感が特徴。粉瘤と全く異なる疾患だが、しこりとして触れるため混同されることがある。 |
| ざ瘡(ニキビ)の悪化 | 炎症が強くなったニキビは、しこりや膿疱として触れることがあり「粉瘤?」と誤解されやすい。しかし、根本的な治療が異なる。 |
| 診断の精度が、治療の質を決める |
|---|
| これらの疾患の鑑別は、皮膚科専門医レベルの研修と経験がなければ難しいことが多いです。ダーモスコピーによる精密観察や、場合によっては切除後の病理診断も重要な判断材料となります。 |
経験不足の医師による粉瘤診療のリスク
近年、正式な皮膚科の専門研修を経ないまま美容クリニックなどに就職し、「皮膚科医」「美容皮膚科医」を名乗るケースが増えているようです。本来、皮膚腫瘍の診断と手術には、専門医取得に至るまでの長い臨床経験が必要です。
実際に当院には、「他のクリニックで粉瘤と言われて切除されたが、診断が間違っていたようだ」「顔に大きな傷ができてしまった」という理由でご相談に来られる患者様が増えております。一度、顔の目立つ部位に誤った方法で手術が施されてしまうと、その傷跡を改善することは非常に困難です。
なお、十分な知識と経験を備えた皮膚科医か否かの判断基準となる、皮膚科専門医の資格については、下記のコラムでもご説明しています。
粉瘤の構造——なぜくりぬけるのか
くりぬき法を理解するために、まず粉瘤の構造を把握しておきましょう。
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くりぬき法を理解する上で重要な3つの構造要素があります。
- 嚢腫壁(のうしゅへき):皮膚の角質層と同じ構造を持つ上皮細胞からなる袋。これが内容物を産生し続ける「工場」です。この壁を残すと再発します。
- 内容物:嚢腫壁が産生した角質・皮脂などが蓄積したもの。独特の臭いがあります。
- 開口部(臍部・さいぶ):皮膚表面にある小さな穴。粉瘤と外界をつなぐ点で、ここから内容物が出てくることがあります。くりぬき法はこの開口部を利用してアプローチします。
粉瘤が「押すと内容物が出てくる」のも、この開口部があるためです。そして、この開口部の存在こそが、くりぬき法を可能にする鍵でもあります。
くりぬき法(へそ抜き法)とはどんな手術か
くりぬき法(パンチ法・へそ抜き法)は、粉瘤の開口部を中心に、直径3〜5mm程度の円筒形パンチ(デルマパンチ)を用いて皮膚を切開し、そこから嚢腫壁ごと粉瘤を摘出する手術法です。
通常の切除術(紡錘形切除)が粉瘤の大きさに合わせて皮膚を楕円形に切り取るのに対し、くりぬき法では入口は非常に小さく(数mm)、そこから内部の袋を丸ごと引っ張り出すようなイメージで摘出します。
くりぬき法のメリット
- 切開創(傷口)が小さい——数mmの穴のみで、粉瘤の大きさにかかわらず入口は小さく済む
- 手術時間が短い——局所麻酔から終了まで、数分(10分以内)で完了することが多い
- 術後の傷跡が最小限——縫合が必要なケースも多いが、傷自体が非常に小さい
- 縫合なしでも回復可能——小さい粉瘤では、穴をオープンのまま自然治癒させることもできる
手術の流れ
局所麻酔(注射)を行い、痛みをしっかり取ってから手術を開始します。パンチで開口部を中心に小さく皮膚を切開し、中の嚢腫壁を丁寧に剥離・摘出します。取り出した後、状態に応じて縫合するか、オープンのまま処置して終了です。
粉瘤の状態によっては(炎症後の癒着がひどい場合など)、当初くりぬき法の予定であっても、術中に切開範囲を広げる判断をすることがあります。いずれの場合も、患者様の傷跡を最小限にすることを最優先に考えて対応しています。
くりぬき法の適応と限界——大きさによる使い分け
くりぬき法はあらゆる粉瘤に適しているわけではありません。当院では粉瘤の大きさ・状態・部位に応じて、手術方法を使い分けています。
おおむね直径3cm未満の粉瘤であれば、くりぬき法が有効なケースが多いです。一方、それより大きな粉瘤——たとえば3cmを超えてくると、パンチによる小さな穴からのアプローチでは袋を丸ごと安全に取り出すことが難しくなってきます。この場合は皮膚を少し大きく切開し、直視下に嚢腫を丁寧に剥離・摘出する方法(紡錘形切除)が適切です。
また、過去に炎症を繰り返した粉瘤は周囲の組織と強く癒着していることがあり、この場合もより丁寧な剥離が必要なため、切開範囲を広めにとることがあります。
| 当院での使い分けの目安 |
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| くりぬき法(小さな傷)、皮膚切開+縫合(大きめの切開)、どちらを選ぶかは、診察時に粉瘤の状態を見て判断します。どちらの方法でも、当院では傷跡が極力残らないよう細心の注意を払って手術しています。 |
「くりぬきは再発しやすい」は本当か
「くりぬき法は取り残しが出て再発しやすい」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。これは特に、手術が得意な形成外科医や外科医の先生方から語られることがありますが、私はこれを都市伝説の一面が強いと考えています。
確かに、くりぬき法にも、十分な技術的な習熟が必要です。開口部から嚢腫壁を破らずに取り出す操作には、一定の経験と手技が求められます。しかし逆に言えば、経験と技術があれば、くりぬき法で再発はまずしないのです。
自分の手術技術に自信のある先生の中には、「くりぬきは簡単すぎて信用できない、必ず切開縫合でやるべきだ」という考えをお持ちの方もいます。しかしそれは、「自分は切開縫合が得意だから」という理由でもあります。くりぬき法もまた一つの技術であり、習熟した術者が行えばきわめて合理的な手術法です。
一方で、切開縫合(紡錘形切除)にはくりぬき法にはない長所もあります。直視下に嚢腫全体を確認しながら剥離できるため、炎症後の癒着が強い症例や大きい粉瘤では確実性が高くなります。当院でも紡錘形切除による粉瘤摘出も多数行っており、状況に応じて最適な方法を選択しています。
| 傷跡はどちらの方法でも必ず残ります |
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| どんなに優れた術者が手術を行っても、皮膚を切った以上、傷跡は残ります。「傷跡ゼロ」は残念ながら不可能です。ただ、術者の経験・技術によって傷跡の目立ちやすさは大きく変わります。当院ではインスタグラムで術後の症例写真を公開していますので、ぜひご参照ください。 |
当院での粉瘤治療について
当院では、粉瘤の診断から手術・術後フォローまで一貫して対応しています。ダーモスコピー等を用いた精密な診察で、粉瘤とよく似た別疾患をしっかり鑑別した上で、最適な治療をご提案します。
手術は院長(皮膚科専門医・麻酔科標榜医)が執刀し、痛みを最小限に抑えた局所麻酔と形成外科的な縫合技術によって、できる限り傷跡が残らない手術を心がけています。初診当日の手術にも(手術枠の空き状況による)対応しており、多くの手術は保険適用です。
「背中のしこりが気になる」「炎症を繰り返している」「他院で粉瘤と言われたがよく診てほしい」といったご相談も歓迎しております。ぜひお気軽にご来院ください。
- (執筆者情報)
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小谷 和弘
日本皮膚科学会 皮膚科専門医
厚生労働省指定 麻酔科標榜医
日本内科学会 認定内科医

