医療コラム
なぜ格安の脱毛専門クリニックはおすすめできないのか?その理由を解説します
「全身脱毛5回で6万円」「今だけこの価格」――そんな格安価格を打ち出す脱毛専門クリニックの広告を、SNSやインターネットの広告などで目にしたことのある方は多いのではないでしょうか。
私はこれまで、皮膚科医としての診療のかたわら、医療脱毛クリニックの経営や美容クリニックのコンサルティングにも携わり、医師ではないビジネスマンや投資家の方も含め、数多くの美容業界の経営者の方々とお付き合いをしてきました。
その経験を踏まえたうえで率直にお伝えしたいと思いますが、極端に安い価格だけを基準に脱毛クリニックを選ぶことは絶対におすすめできません。今回はその理由を、業界の構造的な問題とともに解説します。
目次
なぜ脱毛の「格安価格」が成立してしまうのか――値下げ合戦というチキンレース
脱毛専門クリニックの業界では、ここ数年、価格競争が激しさを増しています。もともと医療脱毛は自由診療であり、価格設定はクリニックの裁量に委ねられています。だからこそ、体力のある大手事業者が思い切った値下げを仕掛け、それに他院が追随せざるを得なくなるという構図が生まれやすいです。
問題は、この値下げ合戦が「誰かが得をする競争」ではなく、「参加者全員が疲弊するチキンレース」になりやすい点です。価格を下げれば新しい患者様は集まりやすくなりますが、その分クリニック側の利益は少なくなります。競争の激しい脱毛業界では、広告費や固定費の負担が大きくなりがちなため、それで利益が少なくなるほど新規の患者様を追加で獲得し続けなければ資金繰りが回らない、という自転車操業の構造に陥るケースが起こります。
顧客獲得コストが経営を圧迫する構造
意外と知られていませんが、脱毛クリニックの経営で最も大きな負担になりやすいのが「広告費」です。これは公開されている統計ではなく、私自身が美容クリニックの経営コンサルティングに実際に携わってきた中での経験値ですが、ネット広告やSNS広告、有名タレントを起用したテレビCMなどを通じて新規顧客を1人獲得するには、5〜10万円程度の費用がかかることも珍しくなく、競争が激しい都市部ではさらに高額になるケースもあります。
一方で、「全身脱毛5回で6万円」といった価格設定を見てみると、その売上の中から広告費だけでなく、人件費・機器のリース料・テナント賃料などをすべて賄わなければならないことになります。さらに最近では美容医療の広告費が高騰しているため、こうした低価格設定のまま広告を増やしたとしても、安定した利益を得ることは難しいといえます。
実際、帝国データバンクの調査によると、2024年度の「脱毛業界」の倒産件数は18件と、前年度(8件)から倍増して過去最多を更新しました。同調査では、脱毛事業を中心に展開する事業者のうち約4割が赤字、業績悪化と合わせると半数を超える事業者が厳しい経営状況にあることも明らかになっています。多額の広告費と前受金に依存したビジネスモデルの限界が、数字としてはっきり表れている状況です。
相次ぐ脱毛クリニック・エステの倒産と、戻らない前払い金
こうした構造的な問題の結果として起きているのが、大手を含む脱毛クリニック・エステサロンの相次ぐ倒産です。2023年以降だけでも、女性専用サロンの「銀座カラー」、男性専用の「ウルフクリニック」、全身脱毛サロンの「脱毛ラボ」、そして2024年12月には医療脱毛大手の「アリシアクリニック」の運営法人が破産を申請し、業界に大きな衝撃を与えました。帝国データバンクの2025年の集計では、こうした大型倒産により、過去2年間で推計延べ150万人を超えるご利用者が影響を受けたとみられています。
とりわけ深刻なのは、前払いで契約した施術代金がほとんど返金されないという実態です。アリシアクリニックの破産管財人が公表した案内でも、「未施術分の施術代を返金することは、極めて難しい状況」と明記されています。実際に報道された事例では、全身脱毛11回分・約27万円を前払いし、7回受けたところで運営会社が倒産、6万円分以上の施術が未消化のまま残ってしまったケースもあります。そんなトラブルに、ある日突然巻き込まれる可能性が、格安脱毛クリニックのお客様にはあるのです。
エステサロンについても状況は同様で、価格競争と広告費の負担に耐えきれず、事業継続を断念するケースが目立っています。「安さ」を売りにした事業モデルそのものが、今、大きな曲がり角を迎えているといえるでしょう。
「医師不在」の脱毛クリニックという看過できない問題
もう一つ、価格競争と並んでお伝えしておきたいのが、「医師不在」の問題です。
医療脱毛で使用するレーザー機器は、毛根の発毛組織を破壊する医療行為であり、医師法上、医師(または医師の指示のもとでの看護師)にしか行うことができません。2025年8月、厚生労働省は、美容医療分野における違法事例を明確化する通知を発出し、無資格者による施術や、医師の指示のない看護師単独での施術は、医師法第17条・保健師助産師看護師法第37条に違反する行為であると改めて示しました。
常駐している医師が不在な脱毛クリニックにおいてさまざまな問題が頻発したため、それらの事例を問題視して厚生労働省がこの通知を発出したという経緯です。
また医師が在籍していたとしても、その方が必ずしも皮膚科を専門とされているとは限りません。安価な脱毛専門クリニックの中には、皮膚科治療や美容医療の経験が十分ではない医師が診療にあたるケースも指摘されています。実際、他院での脱毛施術後にお肌のトラブルを起こされた患者様が、当院にご相談にいらっしゃることも少なくありません。
脱毛のトラブル対応ができないなら、医療を名乗るべきではない
私は皮膚科専門医としてこれまで多くの患者様のお肌のトラブルに向き合ってきました。その立場から疑問を呈したいのですが、施術後に何らかのトラブルが起きた際に、責任を持って診断し、適切に対応できないのであれば、そもそも「医療脱毛」を謳う価値があるのでしょうか。
「レーザーを当てるだけ」であれば、極端に言えばその機器だけで行うことが可能です。しかし本来の医療脱毛は、患者様一人ひとりの肌質や既往歴を診察したうえで機器の出力を調整し、万が一炎症ややけど、色素沈着などが起きた場合には、皮膚科的な知識をもって適切に治療する――そこまでを含めて治療を行えるからこそ、初めて「医療」と呼べるのだと私は考えています。
脱毛以外の施術に手を広げ始めたら要注意のサイン
経営コンサルティングの経験から、もう一つお伝えしたいことがあります。脱毛だけでは採算が合わなくなったクリニックが、ピーリングやその他の美容機器による施術に事業を広げ始めるケースがしばしばみられます。
しかし、この場合であっても、お肌の診断・治療を的確に行える皮膚科専門医が在籍していないのであれば、質の高い美容皮膚科治療は提供できないでしょう。むしろ、経営が苦しくなったクリニックが目先の売上を求めて新しい施術メニューに手を広げ始めることは、経営が傾き始めているサインの一つと捉えたほうがよい場合もあります。クリニックを選ばれる際には、価格やキャンペーンだけでなく、「この施術メニューを適切に行うことができるクリニックなのか」という視点も持っていただければと思います。
自分の体は、何よりも大切な「ブランド」
医療脱毛などの自費診療であっても、担当する医師の顔が見えない、あるいは責任の所在があいまいなクリニックは避けることをおすすめします。万が一のトラブルが起きたとき、誰があなたの治療に責任を持ってくれるのか――それが不明確なぶん、価格は安くなっているのだと考えることもできます。安かろう悪かろう、という言葉がそのまま当てはまる領域になってきていると感じています。
お体はご自身の状態を表す、何よりも大切な「ブランド」につながります。それを磨いて高めていくためには、相応の投資が必要です。ご自身のお肌やお体そのものにしっかりと向き合い、信頼できる医師のもとで適切な料金を支払って、真っ当な治療を受けていただくことを強くおすすめしたいと思います。
海老名皮フ科クリニックでは、皮膚科専門医が責任を持って診療にあたる医療脱毛をご提供しています。ご興味のある方は、下記のページもあわせてご覧ください。
- (執筆者情報)
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小谷 和弘
日本皮膚科学会 皮膚科専門医
厚生労働省指定 麻酔科標榜医
日本内科学会 認定内科医

