掌蹠膿疱症
当院の掌蹠膿疱症治療の特長
- 症状の程度や患者様の生活背景を考慮し、外用薬や内服薬、光線療法を組み合わせて、個別に継続性を重視した治療計画をご提案します。
- ナローバンドUVBやエキシマレーザーを用いた先進的な光線療法(紫外線治療)を行い、皮膚へのダメージを抑えながら効果的に症状を改善します。
- 2025年3月に承認されたオテズラなどの新しい治療薬も積極的に活用し、難症例にも対応しています。
掌蹠膿疱症とは
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は、手の平や足の裏に膿が溜まった小さな水ぶくれ(膿疱)が繰り返しできる、慢性の炎症性皮膚疾患です。膿疱は無菌性であり、細菌やウイルスによる感染症ではないため、他人にうつることはありません。
中年以降の、特に40〜50歳代の女性に多くみられ、日本では10万人あたり100人程度の患者様がいると推定されています。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返し、慢性的に経過することが特徴です。
掌蹠膿疱症の症状

掌蹠膿疱症の症状は、主に手の平や足の裏に現れますが、病状が進行すると爪や骨・関節にも影響を及ぼすことがあります。皮膚では繰り返す膿疱と赤みがみられ、厚く蓄積した皮膚の角質が剥がれ落ちたりします(落屑)。
症状が進行して角質が厚くなると、ひび割れや強い痛みを伴うこともあります。皮膚の症状は身体の両側に左右対称に現れることが多く、これが片側に生じることが多い足白癬などの感染症と鑑別するポイントの一つになります。
手のひら・足の裏の症状
掌蹠膿疱症の症状で最も典型的なのは、手の平や足の裏に繰り返し出現する多数の小さな膿疱です。膿疱は米粒大で赤みがあり、多発すると強いかゆみや痛みを伴います。数日から数週間で破れ、乾燥して茶色いかさぶたになります。症状が続くと皮膚が硬く厚くなってひび割れを起こし、痛みやかゆみで物を持ちにくくなったり、歩行時に違和感や疼痛を感じたりするようになります。
爪の症状
掌蹠膿疱症で爪に症状が現れる場合、混濁や肥厚、変形などがみられます。爪の表面がデコボコになったり白や黄色に変色したりすることがあり、割れやすくもなります。これらの爪の変化は、手の爪にも足の爪にも起こりますが、統計的には足の爪により多くみられます。複数の爪が同時に侵されることが多く、外見的な問題だけでなく、爪の機能が損なわれることで日常生活に不便を感じる場合があります。
骨・関節の症状(掌蹠膿疱症性骨関節炎)
掌蹠膿疱症の患者様の約10〜30%が、骨や関節に炎症が及ぶ「掌蹠膿疱症性骨関節炎」を合併します。胸骨や鎖骨、背骨、関節に炎症が生じ、慢性的な痛みや腫れ、運動制限を伴います。関節の痛みや腫れに加えて、動かしにくさ(可動域制限)を感じることもあります。
皮膚の症状が改善しても関節の症状が残る場合があり、皮膚症状と関節症状は必ずしも並行して変化しないことが知られています。慢性化すると骨の肥厚や変形、関節の可動域制限が進行し、日常生活における動作に永続的な影響を及ぼすこともあるため、早期の診断と適切な治療が重要です。
掌蹠膿疱症の原因
現在のところ、掌蹠膿疱症の明確な原因は完全には解明されていませんが、免疫異常や生活習慣、慢性炎症などが関与すると考えられています。喫煙、病巣感染、歯科金属アレルギー、腸内環境の乱れなどが悪化因子として知られています。原因は患者様一人ひとりで異なるため、治療では皮膚症状だけでなく全身を包括的に評価し、悪化因子を取り除くことが大切です。
掌蹠膿疱症の悪化因子
病巣感染
喫煙習慣
歯科金属アレルギー
便秘や下痢、過敏性腸症候群
掌蹠膿疱症に似た疾患
掌蹠膿疱症と似た症状を示す疾患は多数あり、正確な診断のためにこれらの疾患との鑑別が重要です。手の平や足の裏に水疱や膿疱、紅斑、鱗屑などが出現する疾患はさまざまで、それぞれ原因や治療法が異なります。当院では視診だけでなく、必要に応じて顕微鏡検査や培養検査、血液検査などを行い、正確な診断を徹底しています。
感染症
足白癬
疥癬
梅毒
膿疱性疾患
膿疱性乾癬
稽留性肢端皮膚炎
好酸球性膿疱性毛包炎
湿疹・アレルギー性疾患
異汗性湿疹(汗疱)
接触皮膚炎
腫瘍性疾患
その他
その他の掌蹠膿疱症に似た疾患に、掌蹠角化症があります。手の平や足の裏の皮膚が異常に厚く硬くなる疾患の総称で、遺伝性のもの、後天性のもの、全身疾患に伴うものなどさまざまな原因があります。掌蹠膿疱症との鑑別点は、膿疱や水疱がみられないこと、角質の肥厚が主体であること、炎症が少ないことなどです。
掌蹠膿疱症の治療
掌蹠膿疱症の治療は、症状の程度や範囲、生活背景などに応じて複数の治療法を組み合わせて行います。完治させることが難しい場合もありますが、適切な治療により症状をコントロールし、生活の質を向上させることが可能です。治療は長期に渡ることが多いため、継続可能な治療計画を立てることが重要です。
悪化因子の除去
掌蹠膿疱症の治療の基本は症状を悪化させる要因を取り除くことです。そのなかでも、禁煙は最も効果が見込めます。喫煙習慣のある患者様には禁煙の重要性を説明し、禁煙外来の受診や禁煙補助薬の使用を提案することもあります。禁煙により多くの患者様で症状の改善がみられますが、効果が現れるまでに数ヵ月から1年以上かかることもあります。また、病巣感染の治療も重要です。慢性扁桃炎がある場合は扁桃摘出術を、歯科領域の感染がある場合は歯科治療を検討します。
外用薬
外用薬は掌蹠膿疱症治療の基本となります。ステロイド外用薬と活性型ビタミンD3外用薬を組み合わせて使用することが多く、症状の程度に応じて使い分けます。
ステロイド
活性型ビタミンD3外用薬
内服薬
外用療法で効果が不十分な場合や症状が広範囲の場合、骨関節症状を伴う場合などには内服薬を使用します。ステロイド、レチノイド、免疫抑制剤、ビオチン、PDE4阻害薬など様々な選択肢があります。
ステロイド内服
レチノイド
シクロスポリン
ビオチン
PDE4阻害薬(オズテラ)
光線療法(紫外線治療)
光線療法(紫外線治療)は、患部に特定波長の紫外線を照射することで皮膚の免疫機能を調整し、炎症を抑える治療法です。症状の広さや部位に応じて照射方法が選ばれます。外用薬と併用することでより高い治療効果が見込めます。
ナローバンドUVB
ナローバンドUVBは、紫外線の一種であるUVB(波長311nm付近)を照射する保険適用の光線療法です。週に2〜3回の照射を継続することで、炎症を抑え膿疱の出現を減らします。複数回の通院が必要ですが、副作用が比較的少なく妊娠中でも使用できる利点があります。副作用として照射部位の紅斑、色素沈着などがありますが、一般的に軽度なものです。当院では、全身型ナローバンドUVB照射器を完備しています。
エキシマレーザー
308nmの波長の紫外線を病変部に集中的に照射する治療法です。ナローバンドUVBよりも高いエネルギーを局所的に照射できるため、より効果的です。照射範囲が限られているため、手の平や足の裏など限られた部位の治療に適しています。週に1〜2回の照射を行います。照射はピンポイントで行うため、健常な皮膚への影響を最小限に抑えられる利点があります。
当院では、国内で唯一の薬事承認を取得したエキシマレーザー(※1)であるXTRACを完備しています。顔や手足の限られた範囲の掌蹠膿疱症に特に有効で、比較的短期間で効果が現れることが多いです。照射時間が短いことも利点です。エキシマレーザーは、掌蹠膿疱症に対して保険が適用されます。
抗体療法(生物学的製剤)
重症の掌蹠膿疱症や従来の治療で十分な効果が得られない場合に検討される治療法です。IL-23やIL-17といった炎症に関与するサイトカインの働きを抑える注射薬で、グセルクマブ(一般名:トレムフィア)などが使用されます。高い効果を期待できますが、感染症のリスクや高額な医療費などの課題もあります。使用には一定の条件があり、専門医による慎重な判断が必要です。
(※1)2024年9月現在 皮膚疾患治療用として
- (参考文献)
- (監修者情報)
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小谷 和弘
日本皮膚科学会 皮膚科専門医
厚生労働省指定 麻酔科標榜医
日本内科学会 認定内科医

